『超かぐや姫!』の技術的考察 B|仮想世界ツクヨミの構造と基盤


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前章では、スマートコンタクトが仮想世界へ接続するためのインターフェースとして機能している可能性を検討した。

では、その接続先である仮想世界はどのような構造を持っているのだろうか。


B. 仮想世界「ツクヨミ」の構造について

視点をデバイスから切り替え、次に検討すべきは仮想世界「ツクヨミ」そのものの構造である。

ここでは特に、

1. データはどこに存在しているのか(DBの所在)

2. スマコン以外のデバイスからのログインは可能なのか

という二点に焦点を当てる。


1. データの所在について

ツクヨミが持続的世界である以上、ユーザー情報、環境状態、履歴ログなどを保持するデータベースが存在するはずである。

考えられる構造は大きく三つに分けられる。

(1) 完全中央集権型
(2) 分散型クラウド構造
(3) ローカル生成+必要時同期型

完全中央集権型であれば、ツクヨミは一つの巨大サーバ群によって管理されていることになる。この場合、データ整合性は高いが、障害時の影響は大きい。

分散型クラウド構造であれば、複数ノードで状態を保持し、整合性を担保しながら運用されている可能性がある。大規模サービスとしてはこちらが自然である。

一方、ローカル生成+必要時同期型であれば、世界の一部はユーザー側で生成され、重要な状態のみをサーバへ同期している構造も考えられる。この場合、通信負荷は抑えられるが、不正検知や整合性維持は複雑化する。

作中描写を見る限り、世界状態の一貫性やイベント進行の統制の強さから、ツクヨミは少なくとも中央集権的な管理構造を採用している可能性が高い。

さらに、mail.tukuyomi.comTukuyomitube.com といった独自ドメイン配下のサービスの存在も確認できる。これは、ツクヨミが単一の仮想空間にとどまらず、複数の機能を統合したサービス基盤であることを示唆している。

作中で明示的に説明されているわけではないが、描写の文脈から判断すると、ツクヨミは配信プラットフォーム機能も内包している可能性が高い。

もしリアルタイム配信や双方向型コンテンツを同一基盤上で提供しているのであれば、必要とされる帯域や計算資源はさらに増大することになる。

このことから、ツクヨミは単なる仮想世界サービスではなく、メール、動画、配信を含む複合的ネットワーク基盤として機能していると解釈するのが自然である。


2. スマコン以外でのログイン可否

中央集権型であるならば、ツクヨミは特定デバイスに依存した閉鎖構造というよりも、サーバ基盤上で動作するネットワーク空間と解釈できる。

この場合、スマコンはあくまで公式クライアントであり、理論上は他端末からの接続も可能であるはずである。

加えて、ツクヨミが完全なフルダイブ型ではなく、現実世界での意識が一定程度保持されているように描写されている点や、物理コントローラーによる操作描写が存在する点を踏まえると、入力系統がスマコン単体に閉じているとは限らない。

これらを総合すれば、スマコン以外の媒体からログインできたとしても技術的には不自然ではない。

もっとも、作中では明確な代替端末の描写は確認できない。このことは、技術的制約というよりも、設計思想としてアクセス手段をスマコンに限定している可能性を示唆する。


3. ツクヨミの所有者について

作中描写から推測するに、ツクヨミの所有主体は企業や国家ではなく、ヤチヨ個人である可能性が高い。

ツクヨミの思想や設計方針は明確にヤチヨの意志と結びついており、巨大組織による合議制というよりも、個人の思想的延長として構築されているように見える。

中央集権型アーキテクチャであるならば、サーバ群はどこかに物理的実体として存在している。これを個人が支配・管理しているとすれば、ツクヨミは「企業サービス」ではなく、極めて大規模な私設インフラということになる。

この場合、ツクヨミは公共空間ではなく「ヤチヨの私有地」に近い構造となる。ユーザーは利用者であっても、最終的な統治権限はヤチヨに帰属する。

それはすなわち、ツクヨミという世界が“技術的空間”であると同時に、“個人の思想が直接反映される空間”であることを意味する。


4. インフラ規模と背後構造

作中では、ツクヨミのユーザー数が1億人以上に達していることが示唆されている。

仮に同時接続率を一割と仮定した場合、同時接続者数は1,000万人規模となる。

ここで通信帯域を概算してみる。

仮に1ユーザーあたりの平均通信量を10Mbpsと仮定すると、

1,000万 × 10 Mbps = 100 Tbps

となる。

1 Tbps = 1,000 Gbps

これは、4K動画を数万本同時配信する規模に相当する。

これは単一企業の専用回線というよりも、国家級バックボーン網に匹敵する規模である。

仮にさらに没入度が高く、平均20Mbpsが必要であれば、必要帯域は200Tbpsに達する。ピークトラフィックを考慮すれば、300Tbps級の設計が求められる可能性もある。

この規模のトラフィックを安定的に処理するためには、複数地域に分散した大規模データセンター、冗長化された光ファイバ網、そしてTier1クラスの通信事業者との接続が不可欠である。

これはもはや個人開発プロジェクトの延長ではない。

たとえ形式上の所有者がヤチヨ個人であったとしても、実際の運用は巨大通信事業者やクラウド基盤と密接に結びついていると考えるのが自然である。

すなわちツクヨミは、「思想としては個人の世界」であっても、「物理的には巨大インフラに依存した構造」である可能性が高い。

もっとも、作中で描写される物理的拠点は、巨大な郊外型データセンターというよりも、ごく一般的な家屋、あるいはアパートの一室に近い。

しかし内部の描写を見る限り、それは単なる「自宅鯖勢」的な規模ではなく、部屋そのものがデータセンター化しているかのような構造を持っている。

いわば「逸般の誤家庭」的状況である。生活空間のスケールと、内部で動いている計算資源の規模が明らかに釣り合っていない。

物理的には国家級バックボーンに接続された巨大インフラでありながら、外形はあくまで日常空間に留まっている。このアンバランスさは、技術的リアリティよりも、“個人が世界を握っている”という象徴性を優先した演出と見ることもできる。

逸般のおはなし

ここで言う「逸般の誤家庭」とは、巨大計算資源や国家級インフラを個人宅スケールに折り畳んでしまう表現様式を指している。

現実の大規模データセンターは、数万台規模のサーバ、数十MW級の電力供給、専用変電設備、冷却塔、冗長化された光ファイバ経路などを備えた工業施設である。

一方、作中の拠点は生活空間の延長のように描写されている。しかし内部には、19インチラックと思しき機材が複数確認でき、単なる趣味の自宅鯖レベルを超えた構成になっていることが示唆される。

つまりこれは「普通の部屋」ではなく、住宅スケールに高密度実装された小規模DCに近い。

建物規模と計算資源の規模が釣り合っていない点は確かに逸般的であるが、ラック描写が存在する以上、完全なファンタジーではなく「縮退したDC」として読むことも可能である。

巨大インフラが日常空間に内包されている構図は、ツクヨミという世界が個人の意思に収束していることを象徴しているのかもしれない。

もっとも、ラック規模の機材が稼働していると仮定した場合、必要電力は通常の住宅受電容量を大きく上回る可能性がある。

一般的な集合住宅の電源設備で、数百kW級の負荷を安定運用するのは現実的ではない。

この点を厳密に突き詰めれば技術的矛盾が生じるが、作中では電源設備そのものは描写の中心ではないため、演出上の簡略化と見るのが妥当だろう。


B. ツクヨミ構造に関する小括

以上の検討から、ツクヨミの構造的特徴は主に三つの観点に集約される。

第一に、管理アーキテクチャである。世界状態の一貫性やイベント統制の描写から、ツクヨミは少なくとも中央集権的管理構造を採用している可能性が高い。持続的世界を成立させるには、統合されたデータベース基盤が不可欠である。

第二に、アクセス設計である。表面的にはスマコンに限定された閉鎖構造に見えるが、技術的には他媒体からの接続も成立し得る構造を持つ。ログイン手段の限定は、物理的制約というよりも設計思想の反映である可能性が高い。

第三に、物理的インフラ規模である。1億人規模のユーザーを支えるには、100Tbps級の通信帯域と国家級バックボーン網が必要となる。思想的には個人の世界であっても、物理的には巨大通信基盤と資本構造に依存せざるを得ない。

総じて、ツクヨミは「個人の思想が反映された世界」でありながら、「中央集権的に統制された構造」を持ち、さらに「国家級インフラに支えられた巨大ネットワーク空間」でもあると解釈できる。

もっとも、作中ではその物理的スケールは住宅的空間に圧縮されて描写されている。このスケールの反転は、技術的整合性よりも象徴性を優先した演出と見るのが妥当であろう。

以上のように、「ツクヨミ」は単なる仮想空間ではなく、持続的に状態を保持し、複数のサービスを内包する統合基盤として機能している可能性が高い。

しかし、この世界構造を考える上で避けて通れない問題がある。

それは、この仮想世界の内部で活動する存在は、どのような存在論的位置づけにあるのかという点である。

次章では、その最も象徴的な存在である、かぐやとヤチヨの関係性について検討する。

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