『超かぐや姫!』の技術的考察 A|スマートコンタクトは成立するのか
本記事では、『超かぐや姫!』に登場する技術要素について、現実の工学的観点からゆるく検討してみる。
あくまで作中描写を前提にした考察であり、公式設定の解説や正解提示を目的とするものではない。技術的に「あり得るのか?」という視点で適当に深掘りしていく。
はじめに
本記事は、『超かぐや姫!』のネタバレを含みます。
まだ視聴していない方は、ぜひ一度以上鑑賞してから読むことをおすすめします。
本作は Netflix にて配信されています。
なお、本記事における考察の情報源は、映画本編およびノベライズ版の記述に基づいています。
公式設定資料集や制作インタビュー等は参照していないため、あくまで作中描写から読み取れる範囲での技術的解釈であることをご留意ください。
本記事の構成
本作には、単なるSF的描写にとどまらず、現実の延長線上にあるような技術要素と、時間構造・存在論に関わる深いテーマが重層的に描かれている。
本記事では、それらを三つの観点から段階的に整理していく。
A. スマートコンタクト(スマコン)について
B. 仮想世界「ツクヨミ」の構造について
C. かぐやとヤチヨの関係性について
まずは、世界観の技術的基盤となるスマートコンタクト(通称スマコン)から検討を始める。
A. スマートコンタクト(スマコン)について
本作において仮想世界「ツクヨミ」へアクセスするためのインターフェースが、このスマートコンタクト(以下、スマコン)である。
コンタクトレンズ型という極小デバイスでありながら、表示機構・通信機構・神経リンク的機能を担っているように描写されており、本作の技術的リアリティを支える中核装置となっている。
1. スマコンはツクヨミ専用の媒体なのか?
作中では、スマコンは主にツクヨミおよびAR機能に関連して描写されている。そのため、一見するとツクヨミ専用デバイスのようにも見える。
しかし、設定上の自然さを踏まえると、スマコンは現実のVRデバイスのような汎用プラットフォームと解釈する方が妥当ではないだろうか。もしツクヨミ専用機であるとするならば、「ヤチヨがスマコンそのものを開発した」という前提を置かざるを得なくなる。しかし、そのような描写や示唆は作中には見当たらず、この解釈にはやや無理がある。
したがって、スマコンは汎用端末であり、その上でツクヨミが動作していると考えるのが自然だろう。
近い概念の例としては、劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール- に登場するARデバイス「オーグマー」が挙げられる。特定コンテンツと強く結びついて描かれてはいるものの、デバイス自体はより広い用途を想定した設計である点において類似している。
2. 意識の所在について
まず最も気になったのは、ツクヨミにダイブしている間も(おそらく)現実世界における意識が残っているように見える点である。少なくとも、SAOのような完全なフルダイブ型とは異なる仕組みに思われる。
もしそうだとすれば、安全性の観点からかなり危険ではないだろうか。
前述の通り、現実世界での意識が保持されていると仮定すると、ツクヨミ内での行動と現実世界での身体動作が異なっている描写があるように感じられる。
この場合、人間の脳は、二系統の運動指令を同時並行で安定的に処理できるのだろうか
3. 操作系統について
前節で意識の在り方を検討したが、次に問題となるのはツクヨミにおける操作系統である。
作中描写から推測するに、入力方式は大きく二系統に分けられる可能性がある。第一に、脳内から直接情報を汲み取る形の神経リンク方式である。これは、SAOに見られるような脳神経接続型インターフェースに近いものと考えられる。
第二に、現実世界側で使用する物理コントローラーによる入力方式である。この場合、仮想世界内の動作は現実世界での身体動作やデバイス操作と同期していることになる。
もし両方式が併存しているとすれば、状況や機能に応じて入力レイヤーが切り替わる、あるいは補完的に用いられている可能性も考えられる。
二重レイヤ構造と暴走の可能性
ここで問題となるのは、レイヤーA(現実側の身体制御)とレイヤーB(仮想世界内の仮想身体制御)が同時に存在する場合、その信号処理がどのように分離されているのかという点である。
両レイヤーが完全に独立していない場合、入力・出力信号の混線が生じ、意図しない身体動作を引き起こす可能性がある。いわば「操作系統の暴走」である。
特に神経リンク型インターフェースが用いられていると仮定するならば、仮想空間向けの運動指令が現実側の運動制御系へ誤って伝達される危険性は無視できない。これは単なる操作ミスではなく、構造的リスクの問題である。
安全機構や信号ゲーティングの存在が前提となるはずだが、その詳細は作中では明示されていない。この点は、本システムの実現性を考える上で最も慎重に検討すべき論点の一つだろう。
4. 各種感覚について
作中で言及されている通り、ツクヨミには(2030年時点で)嗅覚や味覚の再現機能は存在しない。
一方で、視覚や聴覚は当然として、触覚や痛覚(物に触れた感覚など)は実装されている可能性が高い。少なくとも、何らかの感覚フィードバック機構が備わっていると考えるのが自然だろう。
ただし、痛覚については現実の痛みをそのまま再現するのではなく、強度を制御・緩和する仕組みが導入されていると予想される。いわゆる「ペインアブソーバ(痛覚緩和機構)」のような安全装置が存在する可能性が高い。
表示リフレッシュレートについて
視覚フィードバックの品質を左右する要素として、表示のリフレッシュレート(frame per second, fps)も重要である。
一般的なディスプレイでは60fpsが標準的であり、近年のVR機器では90〜120fpsが求められることが多い。これは、頭部運動や視線移動に対する追従性を確保し、酔いを防ぐためである。
ツクヨミがフルダイブに近い体験を提供しているとすれば、表示更新は少なくとも90fps以上、理想的には120fps級が必要となる可能性が高い。
一方でスマコンは電力と発熱の制約が厳しいデバイスであるため、常時高fpsで動作しているとは限らない。可変リフレッシュ制御や補間技術によって、体感上の滑らかさを確保している可能性も考えられる。
5. スマコンの電力事情について
スマコンの成立性を左右する最大の要素は、電源である。
コンタクトレンズという極小サイズに搭載可能なバッテリー容量は極めて限られている。その内部で表示機構、通信機構、制御回路を常時動作させるには、徹底した省電力設計が不可欠となる。
仮に高度な神経リンク機能や常時双方向通信を担っているのであれば、レンズ単体での長時間駆動は現実的とは言い難い。想定される構成としては、
・外部装置からの無線給電
・瞬きや体温差を利用した微小発電
・極端な低消費電力設計(表示更新頻度の制限など)
などが挙げられる。
さらに、電力消費は熱問題とも直結する。眼球に直接装着するデバイスである以上、発熱は厳しく制限されるはずであり、許容される電力密度は通常のウェアラブル機器よりもさらに低いと考えるのが自然だろう。
結局のところ、スマコンの技術的ハードルは演算能力よりも、むしろエネルギー密度と熱設計にあるのではないだろうか。
次節では、これと密接に関連する通信機構について考察する。
6. スマコンの通信について
作中描写を見る限り、スマコンに明確な外部中継装置は確認できない。首掛け型や耳掛け型のデバイスが存在する描写もなく、スマコン単体で通信を担っているように見える。
6-1. 内部通信
内部通信については前述の通り、極小筐体内での高密度回路設計が課題となる。表示機構・制御回路・各種センサー間のデータ伝達は距離こそ短いものの、発熱と消費電力の制約が強く作用する。
6-2. 外部通信
問題は外部通信である。
中継機が存在しないと仮定するならば、スマコンは単体でネットワークと直接接続していることになる。これはすなわち、レンズサイズのデバイスにアンテナ、無線モジュール、暗号処理機構が内蔵されていることを意味する。
しかし、眼球付近という人体環境下で安定した高帯域通信を維持することは容易ではない。アンテナサイズの制約、人体による電波吸収、消費電力の問題など、複数の物理的ハードルが存在する。
特に前節で述べた電力制約を踏まえると、高出力通信を常時行う設計は現実的とは言い難い。
このことから、通信方式は極端な低消費電力化が図られているか、あるいはデータ転送量そのものを大幅に圧縮する設計思想が採用されている可能性が高い。
もっとも、2030年という作中年代を考慮すれば、材料工学や電池技術に飛躍的進歩が生じている可能性も否定はできない。
超高エネルギー密度の固体電池や、極低消費電力の専用通信プロトコルが実用化されているのであれば、レンズ単体での常時接続も理論上は成立し得る。
ただし、その場合であっても発熱と安全性の問題は依然として残るため、物理制約を完全に無視できるわけではない。
現実におけるARコンタクトの技術的到達点 ― Mojo Lens
現実世界においても、スマコンに近い構想は存在した。その代表例が米国Mojo Vision社の「Mojo Lens」である。
Mojo Lensは、直径1mm未満のマイクロLEDディスプレイ(約14,000ppi級)をコンタクトレンズ内に実装し、視野中心部にAR情報を投影する設計を採用していた。演算系・無線通信回路・バッテリー・モーションセンサをレンズ内に統合する構想であり、極小実装技術としては世界最高水準の試みであった。
しかしながら、
・レンズ内に十分なエネルギー密度を確保できない
・無線通信と常時演算に伴う発熱制御が極めて困難
・アンテナサイズと人体環境による通信効率の制約
といった問題は根本的に解決されなかった。
Mojo Lensは最終的に量産段階へは到達しておらず、事業としては事実上停止している。
この事例は、極小ディスプレイ実装そのものは現実的到達点に近づきつつある一方で、通信・電力・熱設計こそが最大のボトルネックであることを示している。
作中のスマコンが成立するとすれば、その技術的飛躍は半導体プロセスよりもむしろ、
・エネルギー密度
・超低消費電力設計
・人体近接通信技術
の分野に存在すると考えるのが自然である。
A. スマコンに関する小括
以上の検討から、スマコンの技術的成立性は主に三つの観点に集約される。
第一に、内部構造である。コンタクトレンズという極小筐体に高密度回路を実装するには、徹底した省電力設計と高度な実装技術が前提となる。プロセス世代そのものよりも、機能の削減と集積方法の工夫が支配的要因となる。
第二に、外部通信である。レンズサイズでの無線通信はアンテナ設計・人体吸収・消費電力の観点から強い制約を受ける。通信は極端な低消費電力化、あるいは転送量の圧縮を前提とした設計思想が不可欠である。
第三に、電力と熱である。眼球に直接装着する以上、許容電力密度と発熱は極端に制限される。技術的ハードルの中心は演算能力ではなく、エネルギー密度と熱設計にある。
現実においても、Mojo LensのようなARコンタクトレンズ開発は試みられており、極小ディスプレイ実装そのものは技術的射程内に入りつつある。しかし同事例が示した通り、通信・電力・熱設計こそが最大のボトルネックである。
総じて、スマコンは「高度な演算装置」というよりも、「極限まで役割を絞った超低消費電力デバイス」として設計されていると解釈する方が自然である。
もっとも、2030年という作中年代を踏まえれば、材料工学や電池技術に一定の飛躍が存在する可能性も否定はできない。しかし、それを考慮してもなお、物理制約が完全に消えるわけではない点は留意すべきであろう。
以上より、スマートコンタクトは単なる表示装置ではなく、仮想世界へ接続するための神経拡張型インターフェースとして機能していることがわかる。
しかし、インターフェースが存在するということは、その接続先となる基盤世界がどのように構築されているかという問題が必然的に浮上する。
次章では、その接続先である仮想世界「ツクヨミ」の構造を検討する。